公正証書遺言は、遺言者が公証役場へ出向き、公証人の関与のもとで作成される遺言書の一種です。遺言者が公証人に対し遺言の内容を口頭で伝え、公証人がそれを筆記して作成します。作成された遺言書の原本は公証役場に厳重に保管されるため、高い安全性が確保されています。
今回の記事では、公正証書遺言のメリットとデメリットについて解説します。
遺言書は必要?どういう種類があるの?絶対に作った方がいい人とは? 等のことについては下記の記事をご覧ください
公正証書遺言のメリット

公正証書遺言は、その性質上、多くのメリットを有しており、特に遺された家族の負担を軽減し、相続を円滑に進める上で非常に有効な手段とされています。
1. 高い確実性と無効リスクの低減
公正証書遺言の最大のメリットは、法的な確実性が極めて高い点にあります。
公証人は、法律の専門家として、遺言の形式的要件や内容が法律に適合しているかをチェックし、適切な文書を作成します。これにより、遺言書が方式不備で無効になるリスクがほとんどなく、遺言者の最終的な意思が確実に実現される可能性が大幅に高まります。
自筆証書遺言の場合、素人が自己流で作成すると、形式不備や内容の不明瞭さから無効になったり、相続手続きに使えなかったりするケースが少なくありません。公正証書遺言では、公証人が遺言者の口述を筆記し、遺言者と証人に読み聞かせたり閲覧させたりして正確性を確認するため、内容の曖昧さによるトラブルも避けられます。
2. 紛失・偽造・隠匿のリスクがない
公正証書遺言の原本は公証役場に厳重に保管されるため、遺言書が失われたり、第三者によって改ざんされたり、故意に隠されたりする心配がありません。公証役場は遺言書を遺言者が120歳になるまで保管するとされており、遺言の存在は全国の公証役場で検索システムによって確認できます。これにより、遺された家族が遺言書の存在を知らずに手続きを進めてしまう、あるいは特定の相続人が自分に不利な遺言書を破棄するといった事態を防ぐことができます。
4. 手書きの負担がない
自筆証書遺言は遺言者自身が全文を手書きしなければならないのに対し、公正証書遺言は公証人が遺言者の口述に基づいて筆記・作成します。そのため、高齢者や病気などで手が不自由な方でも容易に作成することが可能です。遺言者自身が署名できない場合でも、公証人がその事由を付記して署名に代えることも認められています。これにより、書くこと自体が困難な状況でも、確実に遺言を残すことができます。
5. 相続手続きが円滑に進む(遺言執行者の指定)
公正証書遺言では、遺言内容を実現するために遺言執行者を指定しておくことが一般的かつ推奨されています。遺言執行者は、遺言者の代わりに遺言内容に従って不動産の名義変更や預貯金の解約・払い戻しなどの相続手続きを単独で行うことができます。
遺言執行者が指定されていない場合、通常は相続人全員の同意(実印と印鑑証明書)が必要となるため、相続人が複数いる場合や、連絡が取りにくい、関係性が希薄な相続人がいる場合には、手続きが非常に煩雑になり、長期間を要することがあります。遺言執行者を指定することで、これらの手間や相続人同士の調整による煩雑さを大幅に減らすことができます。
6. 相続争いの防止効果
遺言は、自分が築き守ってきた大切な財産を、最も有効・有意義に活用してもらうための意思表示であり、「争族」(争いとなる相続)が起こることを防ぐという重要な目的があります。公正証書遺言では、遺産分割の方法や特定の財産の承継先を明確に定めることができるため、親族間での遺産を巡る争いを未然に防ぐ効果が非常に高いとされています。遺言者の「最期のメッセージ」を遺族に伝える意味合いも持ち、家族間の良好な関係維持にも寄与します。
特に、子どもがいない夫婦、再婚しており前妻(夫)との間に子どもがいる場合、内縁関係のパートナーがいる場合、特定の相続人に多く財産を渡したい場合、相続人以外の人にお世話になったお礼として財産を渡したい場合、行方不明の相続人がいる場合、未成年の相続人がいる場合、会社経営や個人事業を営んでいる場合など、相続関係が複雑なケースやトラブルが予想されるケースでは、公正証書遺言の作成が強く推奨されます。
公正証書遺言のデメリット

一方で、公正証書遺言には以下のようなデメリットも存在します。
1. 作成費用がかかる
公正証書遺言を作成するには、公証役場に手数料を支払う必要があります。この手数料は、遺産額や財産を渡す人数によって変動し、一般的には数万円から十数万円かかることが多いです。また、専門家(行政書士や司法書士など)に依頼する場合は、別途その専門家への依頼費用が発生します。自筆証書遺言は作成費用自体はかかりませんが、相続開始後の検認手続きで裁判所費用や専門家費用が発生する可能性があるため、最終的な費用を考慮すると公正証書遺言の方が「コスパが良い」という意見もあります。
2. 二名以上の証人が必要
公正証書遺言の作成時には、公証人の他に2名以上の証人の立ち会いが必要です。未成年者、推定相続人(遺言書で財産を受け取る人を含む)、それらの配偶者や直系血族、公証人の関係者などは証人になることができません。このため、適切な証人を見つけることが難しいと感じる方もいます。ただし、公証役場で証人を紹介してもらうことも可能ですし、遺言書作成をサポートする専門家が証人を務めることもできます。
3. 作成に時間がかかる
公正証書遺言は、思い立ってすぐに作成できるものではありません。事前に公証人との相談や打ち合わせが必要となり、その中で遺言内容の検討や、戸籍謄本、不動産関連書類、預貯金通帳のコピーなど必要書類の収集も求められます。これらの準備に加えて、公証役場との予約が必要となるため、作成までに数週間から数ヶ月の期間を要することがあります。特に、戸籍収集は手間がかかる作業です。
4. 内容が他者に知られる
公正証書遺言は、作成に立ち会う公証人と証人に遺言書の内容が知られることになります。この点が、遺言内容のプライバシーに関わる懸念となる場合があります。しかし、公証人や行政書士・司法書士などの専門家は守秘義務を負っており、また証人も通常は利害関係のない第三者であるため、情報が不適切に漏洩するリスクは低いとされています。むしろ、第三者の専門家が内容をチェックすることで、法的な不備が解消され、後のトラブル防止に繋がるという側面もあります。
5. 遺言者本人の出向が原則
公正証書遺言の作成は、原則として遺言者本人が公証役場に出向いて手続きを行う必要があります。病気などで公証役場に行くことが困難な場合は、公証人に自宅や病院などに出張してもらうことも可能です。ただし、この場合は手数料などの追加費用が発生し, 日当や交通費も加算されます。




