将来への安心を自分でデザインする|任意後見制度のすべて
人生100年時代を迎え、私たちは長生きできるようになった一方で、認知症などによる判断能力の低下への不安も増しています。もし判断能力が不十分になったら、大切な財産の管理や、医療・介護に関する手続きをどうすれば良いのか、心配になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このような将来の不安に備え、ご自身の意思を尊重した生活を継続するための制度が「任意後見制度」です。この制度を活用することで、まだ判断能力が十分にあるうちに、ご自身が信頼する人に将来の支援を委ね、その内容を具体的に決めておくことができます。
任意後見制度とは?法定後見制度との違い

任意後見制度は、判断能力が不十分な方々を法律面や生活面で保護・支援する「成年後見制度」の一種です。成年後見制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
その最大の違いは、制度を利用するタイミングと、後見人を選任する主体にあります。
- 【法定後見制度】
既に判断能力が不十分になった場合に、家庭裁判所が後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)を選任する制度です。本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。家庭裁判所が選任するため、ご自身の希望通りの人が選ばれるとは限りません。 - 【任意後見制度】
本人が十分な判断能力を有している間に、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、ご自身で後見人となる人やその権限の内容を事前に決定し、契約しておく制度です。
任意後見契約には、主に以下の3つの類型があります。
- 【将来型】
任意後見契約だけを締結し、将来判断能力が低下した時に任意後見が開始される形です。 - 【移行型】
任意後見契約と同時に「見守り契約」や「財産管理委任契約」といった別の契約も締結し、判断能力の低下に合わせて任意後見へと段階的に移行していく形です。 - 【即効型】
任意後見契約の締結後、すぐに任意後見監督人の選任申立てを行い、任意後見を即座に開始する形です。これは、すでに判断能力がやや低下しているものの、契約締結能力がある場合に利用されます。
なぜ任意後見制度が必要なのか?

高齢化社会の進展に伴い、認知症患者数が増加しています。
この制度は多くの方にとって将来の安心を確保するための重要な手段となります。
任意後見制度は、以下のような点で特に必要とされます。
- 自己決定権の尊重
ご自身が「この人に後見人になってほしい」「こんなことをしてほしい」と明確な意思を持って決められる点が最大の魅力です。 - 財産保護と詐欺被害の防止
判断能力が低下すると、悪質な詐欺被害に遭ったり、財産を不適切に管理されたりするリスクが高まります。任意後見人が財産を管理することで、このようなリスクからご自身を守ることができます。 - 円滑な生活・医療・介護の手続き
預貯金の引き出し、不動産の管理・売却、介護施設への入居、医療契約の締結など、判断能力が低下するとご自身では難しくなる手続きを任意後見人が代行できます。これにより、切れ目のない支援を受けられます。 - 家庭裁判所による後見人選任の回避
任意後見契約を結んでいない場合、判断能力が低下すると家庭裁判所が法定後見人を選任することになります。この場合、ご自身の希望とは異なる専門家が選ばれる可能性が高く、費用も発生します。任意後見制度なら、この点を避けることができます。 - 複雑な状況への対応
障害のあるお子様を持つ親御さん、複雑な資産管理が必要な方、家族関係が複雑で将来のトラブルを避けたい方など、個別性の高い状況にも対応できます。また、おひとりさまの場合、将来ご自身を支える人がいなくなるリスクがあるため、任意後見制度は特に重要です。
任意後見制度のメリット
任意後見制度には、法定後見制度にはない多くのメリットがあります。
- 後見人を自分で選べる
これが任意後見制度の最大のメリットです。家族、親族、友人、または司法書士や行政書士、弁護士などの専門家の中から、最も信頼できる人に依頼できます。 - ご自身の希望が最大限に反映される
契約書に具体的な支援内容を詳細に定めることで、ご自身の生活、療養看護、財産管理に関する希望(いわゆる「ライフプラン」)を反映させることができます。例えば、「自宅は処分して施設に入所したい」「特定の病院で治療を受けたい」といった希望をあらかじめ決めておけます。 - 不動産の処分がスムーズに
本人の居住用不動産の売却などを行う場合、法定後見制度では家庭裁判所の許可が必要ですが、任意後見制度では家庭裁判所の許可は不要です(ただし、任意後見監督人への相談は必要となる場合があります)。 - 資産活用の柔軟性
法定後見制度が原則として財産保全型であるのに対し、任意後見制度は契約内容次第である程度の資産活用が可能となる余地があるとされています。
任意後見制度のデメリットと対策
任意後見制度は非常に有用な制度ですが、いくつか注意すべきデメリットも存在します。しかし、これらのデメリットには適切な対策を講じることが可能です。
- 本人が行った契約の取消権がない
任意後見人は、本人が締結した契約(例:悪質な訪問販売による不必要な商品の購入)を取り消す権限を持ちません。法定後見人にはこの取消権が認められています。
⇒対策:任意後見契約の「代理権目録」に消費者契約法に基づく取消権行使の条項などを明記することで、対応できる範囲を広げることが可能です。また、日頃から信頼できる任意後見人が適切に監督することで、不利益な契約を未然に防ぐことが重要です。
- 任意後見監督人への報酬が発生する
任意後見制度では、任意後見人が適切に業務を行っているかを監督する「任意後見監督人」の選任が義務付けられており、その報酬が継続的に発生します。通常、弁護士や司法書士などの専門家が選任され、月額1万円~3万円程度が目安となります。
⇒対策:任意後見人自身の報酬は契約で自由に設定できるため、親族が務める場合は無報酬とすることも可能です。また、任意後見監督人の報酬は財産額によって変動するため、計画的に資産を管理することが重要です。
- 自動的には開始しない
任意後見契約を結んだだけでは、任意後見人の職務は自動的に始まりません。本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任申立てが必要です。
⇒対策:「見守り契約」を任意後見契約と同時に締結することで、任意後見人が本人の判断能力の状況を定期的に確認し、適切なタイミングで監督人選任申立てを行えるように備えることができます。
- 契約書に記載のない事項は対応不可
任意後見人の代理権は、契約書(代理権目録)に明示的に記載された範囲に限定されます。記載されていない事項については、後から追加することは困難です。
⇒対策:契約締結時に、将来起こりうる可能性のある事柄をできる限り具体的に想定し、「ライフプラン」として詳細に記載しておくことが重要です。
- 監督人選任後の解除が難しい
任意後見監督人が選任され、任意後見が開始された後は、正当な理由と家庭裁判所の許可がなければ、契約を解除することは困難です。
⇒対策:任意後見監督人選任前に、任意後見人となる人物の適性や財産管理状況を慎重に評価し、問題があれば公証人の認証を受けた書面で解除することを検討しましょう。
- 身上監護・事実行為・身分行為は行えない
任意後見人は、本人の身体介護や食事の世話といった「事実行為」、婚姻・離婚・養子縁組などの「身分行為」、手術や治療に対する「医療行為の同意」はできません。 - 本人の死亡で契約終了
任意後見契約は本人の死亡と同時に終了するため、葬儀や埋葬、ライフラインの解約などの死後の事務処理は行えません。
⇒対策:死後事務を任せたい場合は、任意後見契約とは別に「死後事務委任契約」を締結しておく必要があります。また、遺言書の作成も合わせて検討することで、死後の財産承継もスムーズに行えます。
任意後見制度の手続きの流れ

任意後見制度の利用開始までの主な流れは以下の通りです。
- 任意後見受任者と契約内容の決定
将来の任意後見人となる人を選び、生活、療養看護、財産管理に関する具体的な支援内容を詳細に決定します。
▼ - 任意後見契約の締結
決定した契約内容は、公証役場で「公正証書」として作成することが法律で義務付けられています。これにより、高い証明力を持つ契約となります。
▼ - 法務局への登記
公正証書が作成されると、公証人が法務局へ任意後見契約の登記を嘱託します。
▼ - 本人の判断能力の低下
この段階で、任意後見契約の効力発生の準備が始まります。
▼ - 任意後見監督人選任の申立て
本人の判断能力が低下したと感じたら、本人、配偶者、四親等内の親族、または任意後見受任者が、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。
▼ - 任意後見監督人の選任と任意後見の開始
家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人による支援が開始されます。
任意後見制度にかかる費用
任意後見制度の利用には、いくつかの費用が発生します。
- 初期費用(任意後見契約締結時)
◦ 公正証書作成費用:約11,000円
◦ 登記嘱託手数料:約1,400円
◦ 登記印紙代:約2,600円
◦ その他、書類取得費用など。
- 専門家への依頼費用
任意後見契約書原案作成や公証役場とのやり取りのサポートを専門家に依頼する場合、別途費用が発生します。例えば、当事務所は、任意後見契約書作成料として、55,000円(内容により変動の可能性あり)頂戴しております。
———任意後見開始後———- - 任意後見監督人の報酬
任意後見が開始されると、原則として月額1万円〜3万円程度の報酬が継続的に発生します。この報酬は家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われます。
任意後見人の報酬
任意後見人への報酬は、契約で自由に設定できます。親族が務める場合は無報酬とすることも可能です。
※しかし、私個人の考えとしましては、親族であれ報酬は設定しておくべきだと考えております。理由は後日また別の記事で書きたいと想います。
まとめ|将来の安心を今、手に入れましょう

任意後見制度は、ご自身の将来に対する不安を「安心」へと変えるための、強力なツールです。認知症などに備え、ご自身の意思が尊重された生活を送るために、最適な選択肢の一つと言えるでしょう。
特に、以下のような方々には強くお勧めします。
- ご自身の判断能力が低下する前に、信頼できる人に将来の支援を託したい方。
- ご自身の希望を詳細に定め、それに沿った生活を送りたい方。
- ご家族に将来の負担をかけたくない方、またはご家族がいない「おひとりさま」の方。
- 家庭裁判所が選任する後見人を避けたい方。
任意後見制度は、遺言書や死後事務委任契約など、他の生前対策と組み合わせることで、より包括的な安心を得ることができます。
当事務所(ことのは行政書士・社会福祉士事務所)では、お客様一人ひとりの状況とご希望に合わせた任意後見契約のプランニングから、公正証書作成のサポート、関連する見守り契約や死後事務委任契約、遺言書作成のご相談まで、総合的に支援いたします。
将来の「もしも」に備え、ご自身の「こうしたい」という願いを形にするために、ぜひ一度当事務所にご相談ください。分かりやすく丁寧にご説明し、最適な解決策をご提案させていただきます。


