老老介護の現実|夫婦で備える遺言書と死後事務契約がもたらす安心
高齢化が進む日本社会において、「老老介護」はもはや珍しいことではありません。伊丹市周辺(伊丹、尼崎、西宮、宝塚、川西)でも、ご夫婦がお互いを支え合いながら生活されているケースが多く見られます。しかし、その生活の裏には、様々な不安が潜んでいるのが現実です。
今回は、70代後半のKさんご夫妻の事例を交えながら、老老介護の現実と、ご夫婦でできる将来への備えについて、行政書士、社会福祉士、ケアマネジャーである私の視点から解説します。
今回の事例:老老介護が抱える課題
Kさんご夫妻は、お二人とも70代後半で、家事を分担しながら支え合って生活されています。しかし、「今はお互いが動けているからまだ生活できているが、片方が寝込んでしまったらどうやって生活をしていけばいいのか」「自分たちが亡くなった後のことは誰がしてくれるのか」といった不安を抱えていらっしゃいます。お二人にはお子さんがおらず、それぞれの兄弟姉妹とも疎遠だったり、既に亡くなっていたりする状況です。
「老老介護」とは

「老老介護」とは、高齢者(一般的に65歳以上)同士が互いに介護し合う状況を指します。日本では高齢者の単独世帯や老夫婦世帯が増加しており、今後もこの傾向は続くと予測されています。
老老介護は、身体的・精神的な負担が非常に大きいのが特徴です。日々の食事の準備、排泄、入浴の介助などは、介護される側だけでなく、介護する側の体力も著しく消耗します。また、終わりの見えない介護期間は、精神的ストレスを増大させ、「介護うつ」や「介護疲れ」に繋がり、最悪の場合には虐待に発展するケースもあります。経済的な負担も大きく、年金収入だけでは介護費用を賄いきれないことも少なくありません。
子どもがいない、親族が疎遠なケースの固有の課題
Kさんご夫妻のように、お子さんがいなかったり、親族が近くにいなかったり、疎遠であったりする「おひとりさま」世帯は、さらに深刻な問題を抱えることになります。緊急時の対応、財産管理、介護サービスの手続き、そして何よりもご自身が亡くなった後の手続きを誰に頼むか、という点が大きな懸念となります。
将来への備え:法務と福祉の連携で安心を築く
Kさんご夫妻の「片方が寝込んだら」「自分たちが亡くなった後」という不安は、多くの方が抱える切実な問題です。これらの不安を解消するためには、法務と福祉の両面からの計画的な準備が不可欠です。
遺言書:残された配偶者の生活を守るために
Kさんご夫妻のように、お子さんがいない場合、どちらか一方が亡くなった際、遺言書がなければ残された配偶者だけでなく、故人の兄弟姉妹も相続人となる可能性があります。これにより、残された配偶者の生活基盤である自宅や預貯金が、親族間の遺産分割協議の対象となり、手続きの複雑化やトラブルに発展するリスクが高まります。
今回のケースのようなご夫婦のみの世帯に関しては、「相互に遺言書を作成すること」 をお勧めします。遺言書を作成することで、ご自身の財産を誰にどのように引き継がせるかを明確に指定できます。例えば、残された配偶者がすべての財産を相続できるように指定することで、意図しない相続トラブルを防ぎ、配偶者の生活を確実に守ることができます。
- 公正証書遺言の活用:遺言書にはいくつかの形式がありますが、公証人が関与して作成する「公正証書遺言」は、法的な有効性が高く、内容が明確であるため、後々の争いを防ぐ上で最も確実な方法です。
- 遺言執行者の指定:遺言書の中で「遺言執行者」を指定しておけば、相続発生後、その人が財産の名義変更などの相続手続きを代行してくれるため、残されたご家族(配偶者)の負担を大幅に軽減できます。
死後事務委任契約:ご自身の「最期」を思い描く
遺言書は財産の分配を指定するものですが、ご自身が亡くなった後の「事務手続き」についてはカバーできません。Kさんご夫妻の「自分たちが亡くなった後のことは誰がしてくれるのか」という不安を解消するのが「死後事務委任契約」です。
死後事務委任契約とは、ご自身の死後に発生する様々な事務(葬儀・埋葬、医療費や施設の費用の精算、住居の明け渡し、行政機関への届け出、SNSアカウントの閉鎖など)を、信頼できる第三者に委任する契約です。
委任内容はご希望に応じて自由に取捨選択できます。
特に、Kさんご夫妻のように身近に頼れる親族がいない場合、この契約は非常に重要です。この契約を生前の判断能力があるうちに締結しておくことで、ご自身の望む形で最期を迎え、残された人々に迷惑をかけることなく、尊厳が守られます。
任意後見制度と財産管理委任契約:判断能力低下に備える
Kさんご夫妻の「片方が寝込んでしまったらどうやって生活をしていけばいいのか」という不安には、「任意後見制度」や「財産管理委任契約」が有効な対策となります。
- 任意後見制度
ご自身に十分な判断能力があるうちに、将来認知症などで判断能力が低下した場合に、財産管理や介護・医療に関する契約などを本人に代わって行う人(任意後見人)をあらかじめ選んでおく制度です。法定後見制度とは異なり、ご自身で後見人を選ぶことができるため、Kさんご夫妻のように「誰に、どのような生活を送りたいか」という希望を反映させることが可能です。 - 財産管理委任契約
これは、判断能力があるうちは元気だが、例えば身体が不自由になって預貯金の管理や日々の支払いが難しくなった場合に、信頼できる人にそれらの事務を委任する契約です。任意後見契約と同時に締結し、判断能力が低下するまでの間の財産管理をカバーする「移行型」の契約が一般的です。 - 身元保証人問題
介護施設への入居や病院への入院時には、多くの場合「身元保証人」が求められます。身元保証人には「身元引受(緊急連絡先・身柄引取)」「手続き代理」「支払い保証」の役割がありますが、任意後見人は「支払い保証」の役割を担うことはできません。そのため、任意後見契約と合わせて、身元保証サービスを提供する民間事業者との契約も検討する必要がある場合があります。ただし、この分野には悪質な業者も存在するため、信頼できる事業者選びが重要です。
※成年後見制度(任意後見制度・法定後見制度)を利用されている場合は、身元保証人がいなくても入居や入院が安心しておこなえることも多々あり、身元保証人をあえてつけなくても良い場合もあります。
専門家との連携が未来を拓く

Kさんご夫妻の事例が示すように、高齢期の生活課題は多岐にわたり、法務と福祉が密接に絡み合っています。私のように行政書士、社会福祉士、ケアマネジャーの資格を併せ持つ専門家は、このような複合的な課題に対して、総合的な視点から支援を提供できます。
伊丹市周辺の皆さまへ
高齢者の方が介護生活に不安を感じた場合は、まず地域の高齢者の総合相談窓口である「地域包括支援センター」に相談してみるのが良いでしょう。ここでは、介護予防や地域での支援体制づくり、権利擁護に関する助言が得られます。
しかし、遺言書の作成、任意後見契約、死後事務委任契約といった法的な手続きについては、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家のサポートが不可欠です。これらの専門家は、ご本人の意思を尊重しながら、複雑な手続きを代行し、将来の不安を解消するための具体的な道筋を示してくれます。特に、Kさんご夫妻のように、親族が疎遠な場合や身寄りがない場合には、第三者である専門家が介入することで、公平で確実な手続きを進めることができます。
伊丹市、尼崎市、西宮市、宝塚市、川西市といった地域にお住まいの皆さまも、不安を感じたらすぐに専門家へ相談することをおすすめします。早めに相談することで、ご自身の状況に合わせた最適な対策を立て、将来的な負担やトラブルを未然に防ぐことが可能になります。
まとめ
Kさんご夫妻のように、将来への漠然とした不安を抱えながら歳を重ねている高齢者の方は少なくありません。「片方が寝込んだら」「自分たちがいなくなったら」といった不安は、適切な法務・福祉の準備によって解消することができます。
遺言書の作成、死後事務委任契約、そして任意後見制度の活用は、ご自身の意思を尊重し、尊厳ある老後と「最期」を迎え、残された方々への負担を軽減するための重要な一歩です。これらの準備は、ご自身だけでなく、ご夫婦の安心に繋がり、何よりも「これで大丈夫」という心の平穏をもたらします。
お一人で悩まず、ぜひ専門家にご相談ください。伊丹市周辺の地域に根ざした当事務所が、皆さまの状況に寄り添い、法務と福祉を融合させた形で、未来への安心を築くお手伝いをさせていただきます。




