親への「未来への手紙」のススメ:家族を守り、円満な相続を実現する穏やかな話し方
遺言書と聞くと、「まだ早い」「縁起でもない」といった言葉が返ってくるかもしれません。しかし、遺言書は、ご自身の財産をどうしたいかという意思表示だけでなく、残されるご家族への深い愛情と配慮の証でもあります。ご両親が元気なうちに遺言書を作成しておくことは、ご家族が将来「争族」で苦しむことを防ぎ、スムーズな相続を実現するための最も効果的な手段と言えるでしょう。
ここでは、親御様に遺言書作成を勧める際、どのように話せば反発されずに受け入れてもらえるか、その「コツ」をお伝えします。
なぜ、今、遺言書が「家族を守る手紙」となるのか?

遺言書は、故人の最後の意思表示であり、単なる財産の分配以上の意味を持ちます。それは、残されるご家族への「未来への手紙」となるものです。
1. 家族間の「争族」を未然に防ぐ最大の効果
遺言書がない場合、故人の財産は「遺産分割協議」によって、相続人全員の合意を得て分けられることになります。しかし、この話し合いがスムーズに進まないケースは少なくありません。
- 思わぬ「争族」のリスク
財産の多寡にかかわらず、遺産分割をめぐる争いは後を絶ちません。裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の約4分の3は遺産総額5,000万円以下、1,000万円以下でも3分の1を超えるというデータもあります。 - 複雑な家族関係での紛争回避
【夫婦間に子どもがいないケース】
子どもがいない夫婦の場合、配偶者の他に故人の親、親が亡くなっていれば故人の兄弟姉妹や甥姪が相続人になります。配偶者と義理の家族(故人の兄弟姉妹など)との間で、遺産分割協議を行うことは精神的・手続的に大きな負担となり、トラブルに発展しやすい傾向にあります。
過去記事:「子どものいない夫婦こそ遺言を準備すべき理由
【再婚し、前妻・前夫との間に子どもがいるケース】
再婚した場合、前妻・前夫との間の子どもも相続人になります。音信不通であっても、その子どもを含めて遺産分割協議を行う必要があり、感情的な対立からトラブルに発展することが予想されます。
【内縁の配偶者や子どもの配偶者など、法定相続人以外に財産を遺したいケース】
内縁の配偶者や、子どもの配偶者(嫁や婿)は、法律上の相続人ではありません。遺言書がなければ、いくら生前にお世話になったとしても、彼らに財産を遺すことはできません。
【相続させたくない人がいるケース】
親不孝な子どもや、長年会っていない親族など、特定の相続人に財産を渡したくない場合でも、遺言書がないと法定相続分に従って相続権が発生してしまいます。遺言書で意思を明確にすることで、そのような事態を防ぐことができます。ただし、配偶者や子、父母には「遺留分」という最低限の相続分が法律で保証されており、遺留分を侵害する内容の遺言は、トラブルの原因となる可能性があります。兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
過去記事:遺言書作成の際に気をつけたい「遺留分」について
遺言書があれば、故人の明確な意思が示され、争いの余地を大幅に少なくすることができます。
2. 残されたご家族の相続手続きをスムーズにする
遺言書がないと、ご家族は相続人の確定から財産調査、遺産分割協議、名義変更、預貯金の解約など、多岐にわたる煩雑な手続きをすべて自分たちで行う必要があります。これには膨大な時間と労力がかかり、場合によっては長期間にわたって手続きが滞ることもあります。
- 手続きの複雑化・長期化の回避
【行方不明の相続人がいるケース】
相続人の中に行方不明の人がいる場合、遺産分割協議を行うには家庭裁判所への申し立て(不在者財産管理人選任や失踪宣告など)が必要となり、手続きに多くの時間と手間がかかります。遺言書があれば、遺産分割協議が不要となるため、これらの手続きを回避できます。
【判断能力がない・未成年の相続人がいるケース】
相続人の中に認知症などで判断能力がない人や未成年者がいる場合、遺産分割協議を行うには家庭裁判所による成年後見人や特別代理人の選任が必要になります。遺言書があれば、遺産分割協議が不要なため、これらの手続きを避けて円滑に進めることが可能です。
- 遺言執行者の指定による円滑な手続き
遺言書で「遺言執行者」を指定しておくことで、その人が単独で遺産分割手続き、預貯金の解約、不動産の名義変更、株式の移転など、遺言の内容を実現するためのあらゆる手続きを行うことができます。これにより、相続人全員の合意や協力がなくても、スムーズに手続きが進み、残されたご家族の負担を大幅に軽減できます。特に、非嫡出子の認知や相続人の廃除といった手続きは、遺言執行者しか行えないため、これらの意思がある場合は必須となります。
3. 感謝や思いを「最期のメッセージ」として伝えることができる
遺言書は、単に財産の分け方を指定するだけでなく、付言事項(ふげんじこう)として、ご家族への感謝の気持ちや、財産配分の理由、あるいはご自身の人生観などを自由に記すことができます。これにより、たとえ法定相続分と異なる分け方をしても、ご家族が故人の真意を理解しやすくなり、感情的な対立を防ぐ効果が期待できます。これは、ご家族にとってかけがえのない「最期のメッセージ」となるでしょう。
親御様に遺言書作成を勧める「3つのステップ」

親御様に遺言書作成を勧める際には、相手の気持ちに寄り添い、反発を招かないよう配慮することが重要です。
1. 「親のため」ではなく「家族みんなのため」であることを強調する
- 「終活」や「死」を連想させない
「遺言書」という言葉を直接出すことに抵抗がある場合は、「将来、私たち子どもが困らないように、元気なうちに相談しておきたいことがあるんだけど…」といった切り出し方で、ご自身や家族の不安を共有する形から入るのも良いのではないでしょうか。 - 「ご家族への愛情」として伝える:
「お父さん、お母さんが元気なうちに、私たち家族が将来、財産のことで揉めたり、手続きで大変な思いをしたりしないように、何か一緒に考えておきたいんだ。お父さん、お母さんはどうしたいと思っているの?」というように、親御様が残される家族を気遣う気持ちに訴えかけることが有効です。遺言書は「ご家族への愛情表現」であると伝えることで、ポジティブな側面から話し合いを始めてみてはどうでしょうか。
2. 遺言書の種類と、安心・確実な方法を具体的に説明する
親御様が「書くのが大変そう」「誰かに内容を知られたくない」といった不安を抱いているかもしれません。遺言書にはいくつかの種類があり、それぞれメリット・デメリットがあることを分かりやすく説明し、安心・確実な方法を提案することが重要です。
- 「自筆証書遺言」の注意点と対策
◦ 自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印することで手軽に作成できます。
◦ しかし、形式不備で無効になるリスクが高いというデメリットがあります。例えば、不動産の表記が住所だけだったり、「託す」「管理させる」といった曖昧な文言を使ったりすると、無効になったり相続手続きに使えなくなったりする可能性があります。
◦ また、紛失や改ざんのリスクがあり、発見されない可能性もあります。
◦ 原則として、死後に家庭裁判所での検認手続きが必要となるため、手続き開始までに時間がかかります。
◦ これらのデメリットを解消するため、2020年7月からは法務局における遺言書保管制度が始まりました。法務局に預けることで、紛失や改ざんを防ぎ、検認手続きも不要になります。ただし、法務局は内容の審査はしないため、遺言書の有効性を保証するものではありません。
法務局による遺言書保管制度とは?利用メリットと注意点
- 公正証書遺言のすすめ
◦ 最も確実な遺言書として推奨されるのが公正証書遺言です。
◦ 公証役場で公証人が作成するため、形式不備で無効になるリスクがほとんどありません。
◦ 原本は公証役場に厳重に保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、相続人が検索することも可能です。
◦ 死後の家庭裁判所での検認手続きも不要なため、手続きがスムーズに進みます。
◦ 自分で文章を組み立てる必要がなく、病気などで手が不自由な場合でも作成可能です。
◦ 費用はかかりますが、将来の争いを防ぐことを考えれば、コストパフォーマンスが高いと言えます。
◦ 公証人や証人に内容を知られるというデメリットはありますが、専門家が証人になることも多いです。
3. 専門家のサポート
- 「自分で書くのは難しい」「手間がかかる」といった親御様の懸念に対して、もしあなたに専門的な知識が無いのであれば、「全てを自分たちでやる必要はなく、専門家がサポートしてくれるから安心だよ」と伝えることで安心感を持ってもらえるのではないでしょうか。
- 行政書士は、遺言書作成のサポートや、相続手続きに関する書類作成、各種許認可の申請代行など、幅広い行政手続きの専門家です。遺言書作成においては、お客様の意思を正確に文書化し、法的に有効な遺言書の作成を支援します。
- 「専門家に任せることで、手間も時間も省けるし、何より法的に間違いのない安心な遺言書ができる。」こと、またそれが「私たち子どもにとっても、お父さん・お母さんの『最期のメッセージ』を確実に受け取ることができる最善の方法なんだ。」といったように、親御様への感謝と安心感を結びつけて話すと、受け入れられやすくなるのではないでしょうか。
遺言書作成を専門家へ依頼する安心感

遺言書は、故人の思いを形にし、残された家族が円満に過ごせるようにするための大切な準備です。専門家に依頼することで、以下のような安心感が得られます。
- 法的な有効性の確保
遺言書は民法で定められた厳格な方式に従って作成しないと無効となる可能性があります。専門家はこれらの要件を熟知しており、無効になるリスクを最小限に抑えた遺言書の作成をサポートします。 - 中立な立場で公平な執行
遺言執行者に相続人の中から選任すると、他の相続人との間に利害関係が生じ、トラブルの原因となる可能性があります。弁護士、司法書士、行政書士などの専門家を遺言執行者に指定することで、中立的な立場で遺言を執行してもらい、紛争を未然に防ぐことができます。遺言執行者は、相続人への通知義務や財産目録作成義務など、その任務を適切に果たす責任も持ちます。 - 包括的なサポート
遺言書作成だけでなく、相続財産調査、戸籍調査、遺言執行、さらには相続税に関するアドバイスなど、相続に関する一連の手続きをトータルでサポートできるため、ご家族の負担を大きく軽減できます。
当事務所にご相談ください
遺言書の作成は、故人の想いを確実に伝え、残されたご家族が「争族」で苦しむことなく、円満に相続手続きを進めるための非常に重要な「未来への準備」です。
当行政書士事務所(ことのは行政書士・社会福祉士事務所)では、ご依頼者様の意思を尊重し、法的に有効かつ円滑な相続を実現するための遺言書作成をサポートいたします。ご家族の状況や財産の構成に応じた最適な遺言書の内容をご提案し、将来のトラブルを未然に防ぐお手伝いをさせていただきます。
「誰に相談すればいいか分からない」「何から始めたらいいか不安」「親がなかなか話に応じてくれない」と感じていらっしゃる方も、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。当事務所が、皆様の疑問や不安に寄り添い、丁寧にご説明させていただきます。




