【事例で解説】認知症の親の財産を守るには?法定後見制度の活用について

法定後見_事例 成年後見・任意後見・終活

高齢化が進む現代において、認知症は決して他人事ではありません。大切なご家族が認知症になった際、「財産管理はどうすればいいの?」「悪徳商法に騙されないか心配」「介護施設に入所する手続きは誰がするの?」といった不安を抱える方は少なくありません。

そのような状況で、ご本人やご家族を法的に支援する制度が「成年後見制度」です。成年後見制度には、すでに判断能力が低下している方を対象とする「法定後見制度」と、将来に備えて任意で契約を結ぶ「任意後見制度」の2種類がありますが、今回は、すでに判断能力が不十分になっている方が利用する「法定後見制度」に焦点を当てて、その仕組みとメリット・デメリットを架空の事例を交えて詳しく解説します。

伊丹市に住むAさんのケース:法定後見制度が必要になった時

Bさんは、伊丹市で一人暮らしをしている母親のAさん(70代)の認知症が進行し、最近困ったことが続いているとのこと。 Aさんは以前から物忘れが見られましたが、ここ半年で症状が悪化。買い物でお金を払ったか、買い物をしたのかどうかも分からなくなることが増え、日常の生活に支障が出始めました。つい先日、高額な羽毛布団を訪問販売で購入してしまい、Bさんが気づいて慌ててキャンセルしようとしましたが、Aさんは契約内容をほとんど覚えていませんでした。また、Aさんの銀行口座から多額の現金が引き出されており、何に使われたか不明な点も発覚しました。 Bさんは、このままではAさんの財産がなくなってしまうのではないかと、強い不安を感じました。さらに、Aさんの生活全般においても支援の必要が増え、自宅での生活が難しくなってきたため、介護施設への入所も検討している状況です。

このようなAさんのように、すでに判断能力が不十分になってしまった場合には、「法定後見制度」の利用が検討されます。

法定後見制度とは?その種類と家庭裁判所への申し立て

法定後見_申立

法定後見制度は、すでに認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方を、法律面や生活面で保護・支援するための制度です。

ご本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型(種類)があります。

  • 後見:判断能力が常に欠けている状態(重度の認知症など)。
  • 保佐:判断能力が著しく不十分な状態(中程度の認知症など)。
  • 補助:判断能力が不十分な状態(軽度の認知症など)。

法定後見制度の利用は、本人、配偶者、四親等内の親族、または市町村長などが家庭裁判所に申し立てることから始まります。伊丹市に住むAさんのケースでは、長男のBさんが申し立てをすることができます。

法定後見人がつくまでの流れと費用

法定後見人が選任されるまでの手続きは、以下のステップで進みます。

必要書類の収集と申し立て

申し立てには、医師の診断書戸籍謄本住民票不動産の登記事項証明書など様々な書類が必要です。これらの書類を収集し、申立書を作成して家庭裁判所に提出します。 申し立てにかかる主な費用は以下の通りです:

  • 申立手数料(収入印紙):800円

  • 登記手数料(収入印紙):2,600円

  •  郵便切手代:4,000円~5,000円程度

  • 診断書作成費用:数千円程度(病院によって異なります)

  • その他、戸籍等取得費用や不動産登記事項証明書費用などの他、司法書士などに申し立て書類の作成や手続きのサポートを依頼する場合、各士業事務所によって異なりますが、別途15万円程度~の報酬が発生することが多いようです。

家庭裁判所による審理と後見人等の選任

申し立て後、家庭裁判所は申立人や後見人候補者との面接、ご本人との面接、親族への意向照会、場合によっては医師による鑑定などを行い、総合的に判断して後見人等を選任します。 後見人には、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選ばれることが多いですが、申し立て書に親族を候補者として記載した場合、親族が選ばれることもあります。しかし、ご本人の財産が多額・複雑な場合や、親族間で対立がある場合などは、専門職が選任される可能性が高まります。

今回の事例において、Bさんも申し立ての際に成年後見人等候補者として申請することができますが、必ずしも選任されるとは限りません。

後見の登記

審判が確定すると、裁判所の依頼により法務局に後見登記が行われ、後見人等の氏名や権限が公示されます。

法定後見人の役割とメリット

法定後見_メリット

選任された法定後見人(成年後見人、保佐人、補助人)は、ご本人の利益を考えながら、ご本人を代理して契約などの法律行為を行ったり、ご本人が自分で行った不利益な法律行為を取り消したりすることで、ご本人を保護・支援します。

主な役割とメリットは以下の通りです。

財産管理の徹底

後見人は、ご本人の預貯金や不動産などの財産を管理し、年金受給や各種支払いを代行します。銀行に後見の届け出をすると、後見人以外は口座からお金を引き出せなくなり、財産の使い込みや不明な入出金を防止できます。Aさんのように多額の現金の使途が不明な場合でも、後見人がつくことで財産の流出を防ぎ、適切に管理することができます。

身上監護による生活支援

後見人は、ご本人の生活や療養看護に関する事務を代行します。具体的には、介護保険の認定申請、介護サービスや施設への入所契約、医療費の支払い、入院手続きなどを行います。Aさんのケースで介護施設への入所を検討している場合、後見人がいればスムーズに手続きを進めることができます。ただし、実際の介護(食事の世話や入浴介助など)は後見人の職務には含まれません

不利益な契約の取消権

後見人には、ご本人が行った詐欺などによる不利益な契約を取り消す権限が認められています。Aさんの高額な羽毛布団の購入のようなケースでも、後見人が契約を取り消し、財産を守ることが可能になります。ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為は取り消せません。

家庭裁判所の監督による透明性

後見人は、その職務について定期的に家庭裁判所に報告する義務があり、家庭裁判所の監督を受けます。これにより、後見人による不正が防止され、ご本人の財産が適切に管理されているかチェック機能が働きます。

法定後見制度のデメリットと注意点

法定後見_デメリット

法定後見制度は強力な支援策ですが、いくつかのデメリットや注意点も存在します。

継続的な費用負担

法定後見制度を利用すると、申し立て時だけでなく、後見が開始されてからも費用が発生します。特に専門職が後見人に選任された場合、ご本人の財産の中から月々2万円程度の報酬~(資産により変動)が支払われます。これはご本人が亡くなるまで継続します。また、親族が後見人になった場合でも、ご本人の財産額や複雑性によっては専門職の後見監督人が選任され、その報酬(月額1万円~3万円程度)が発生することもあります。

財産活用の制限

法定後見制度はご本人の財産を保護することが主目的であり、積極的な資産運用や相続税対策(生前贈与、アパート建築など)は原則として認められません。例えば、ご本人の居住用不動産を売却する場合でも、家庭裁判所の許可が必要となり、その必要性が厳しく審査されます。Aさんのケースで自宅を売却して介護施設の費用に充てる場合も、裁判所の許可が必要です。

本人の意思反映の難しさ

ご本人の判断能力が低下しているため、後見人が選任されると、ご本人の意思が必ずしも十分に反映されにくい場合があります。もちろん、後見人はご本人の最善の利益を熟考して行動しますが、ご本人の希望と異なる決定がなされることもあり得ます。

手続きにかかる時間

法定後見制度の申し立てから後見開始までには、3ヶ月から5ヶ月程度かかることがあります。急を要する状況であっても、すぐに後見活動が始まるわけではないため、事前の準備が重要です。

死後の事務は原則対象外

法定後見人の職務は、ご本人の死亡と同時に終了します。ご本人が亡くなった後の葬儀や遺品整理、公共料金の解約などの「死後事務」は、原則として相続人が行うことになり、法定後見人が引き続き行う義務はありません

行政書士からのアドバイス:適切な選択のために

法定後見_相談

法定後見制度は、判断能力が不十分な大切なご家族の生活や財産を守る上で非常に有効な手段です。しかし、その手続きは複雑で、メリットとデメリットを十分に理解した上で利用することが不可欠です。

特に、後見人候補者の選定申し立て書類の準備家庭裁判所とのやり取りなど、専門的な知識と経験が求められる場面が多くあります。

ご家族の状況はそれぞれ異なります。法定後見制度が本当に最適なのか、あるいは将来に備えて任意後見制度を検討すべきかなど、迷われた際は、早めに専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。

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